富士山と海と【The Old Bus】 この風景と共に暮らす人

海沿いに佇む青いバスの存在

「どうしてあんなところに?」
沼津から伊豆半島に向かう駿河湾を眺める海沿いのエリアに、
古く趣のある青いバスが停まっている。

そのバスの名は「The Old Bus」
まるで元からそこにあったかのように、この地に自然に溶け込み、存在している。
初めて何も知らずに訪れたとき、直感として とても大切に育まれている 何か尊いものを感じた。

大切に紡がれていくThe Old Bus 物語

富士山と海とThe Old Bus。
3つの青が創り出すこの風景と共に
この場所に暮らすのは、舛本弘毅さん、舛本佳奈子さん夫妻。
ここでは、舛本夫妻が、The Old Busとともにここに暮らすその物語を
The Old Bus5周年を機にお二人が作ったZINE(冊子)を参考にお届けします。
(写真と動画はすべて舛本夫妻よりご提供いただいております)

伝説のBAR「ジャックナイフ」

この青いバスは、1979年生まれ。
かつて浜松市の遠州鉄道バスとして働いていた。その役目を終えたあと、
横浜の埠頭でひっそりとバスバー「ジャックナイフ」として、
アートと音楽をこよなく愛するマスター南さんと共に30年間の歴史を紡いできた。

佳奈子さんは、この「ジャックナイフ」通称バスバーに常連として通っていた。
佳奈子さんにとってバスバーは、大人の秘密基地。とっておきの場所だった。
ところが2018年、バスを置いていた施設の閉鎖に伴い
オーナー南さんはバスを手放すことを決める。

バスバーがスクラップされてしまうと聞いた時の心の動きを佳奈子さんに伺った。
「私にとってこのバスは世界遺産なんです。
この雰囲気、皆に愛された場所を失くしてはダメです。私が何とかします。」
思わずオーナー南さんにそう伝えていたそう。勢いで出たセリフでもあったが、本心だったと。

すぐさま夫の弘毅さんに連絡をした。突然の申し出、弘毅さんの反応は
「いいんじゃない。」
拍子抜けなくらいの快諾であったそう。こうして、バスを夫婦で引き継ぐことが決まった。

富士山が真ん中に見える場所 沼津の地へ

これだけ大きなバスを受け入れてくれる場所がなかなか見つからなかった。
候補地が浮かんでは消える日々。
ようやく縁が繋がり、横浜と同じ海の見える場所 沼津の地に決まった。
夫婦ともにゆかりのない場所ではあったが、沼津に住む人の人柄、
バスバーを歓迎してくれる雰囲気が嬉しかったと語ってくださった。

現役をとっくに終えていたバスバーの移動は、冷や汗ものであった。
レッカーで横浜の地を去るバスバーの後ろでオーナー南さんは
「出来の悪い息子を見ているようだ」と
どこか寂しくも嬉しそうな表情でつぶやいた。
横浜から箱根を越え、何とか沼津の地へ。100㎞ 6時間超の大移動であった。

そこからは、バスバーを甦らせるための毎日。
長い年月を海のそばで雨風にさらされたバスは錆びて穴だらけ。
雨漏りもあり、床や壁の木は腐って朽ちかけていた。

途方に暮れるほどの修復作業を来る日も来る日も行った。
灼熱の夏の日差し、アツアツの鉄板のような屋根での作業は過酷であったに違いない。
舛本夫妻は、古い趣を損なわないように修復作業を行った。
こうして「The Old Bus」としての出発を果たした。
今も雨漏りや塩害を防ぐための洗車など、長く生きながらえられるよう、延命処置は続いている。

The Old Bus 落ち着いてゆったりした時間を過ごすための空間

The Old Busは、バーやカフェを主の目的とせず、
「チルアウトスペース(過ごし処)」としてお客様を迎える。
「チルアウト=chill out」とは、落ち着く、くつろぐ、リラックスする
という意味で使われている。
ここで提供されるのは、潮騒や鳥の声、バスの車窓から見える海越しの富士山。

「落ち着いてゆったりした時間を過ごすための場所」
思い思いにスローな時間の過ごし方を楽しんでほしい。

森のキャンプベース 1日1組限定のプライベート感あふれる空間

裏山には、1日1組だけが自由にすごすことのできる、
富士山を望む森の秘密基地「森のキャンプべース」がある。
弘毅さんは、大学で微生物の働きで土壌や水質を浄化する研究をしていた。
その学びを生かし、ここを大地の再生の手法を用いた環境に寄り添うキャンプ場に蘇らせた。
大地の再生とは、大地の血管である水や空気の流れなどに注目し、環境を再生するという手法。
難しいことは語れないが、ぜひここで感じてほしい。
水脈が通り、水と空気が滞ることなく循環するとても気持ちの良い空間を。

このキャンプ場では自然に寄り添い、環境への負荷を減らすためのルールを作っている。
洗剤が必要な方には、米ぬかと微生物で作られた洗剤を用意している。
トイレは、落ち葉を使用した水を流さずに微生物の力で排泄物を分解する
コンポストトイレを利用いただいている。お風呂は、大自然の中のドラム缶風呂。

朝の目覚めをのびのび暮らす烏骨鶏の「コケコッコー!」の声で迎えられるのも
この場所の醍醐味。なんて贅沢な目覚まし時計。
気持ちの良い空気、自然に抱かれる体験を楽しんでいただきたい。

アトリエウミノイエ 予期せぬ愉しい出会いが生まれる空間

The Old Busの向かいにある、外見からは廃墟と見紛れる建物。
かつて海の家として使われていた建物を、バスと並行してリノベーションを施した。
できるだけ資材を買わず、集めた素材を使い夫婦でコツコツ手作りした空間だ。
リノベーション前の建物に初めて入ったとき、たくさんのコウモリが奥から飛び出してきて、
天井は動物の糞溜まりで抜け落ちていたような場所だったそうだが、
今は、そんなことは全く想像ができないほど、素敵に生まれ変わった空間になっている。

ここは、普段は舛本夫婦がプライベートで使用している空間だが、
お二人の想いに共感するアーティストたちの表現の場としてオープンすることがある。
ギャラリー、LIVE、パフォーマンス、ワークショップ、映画上映、撮影スタジオなど多目的な使われ方で、多様な人が集い、予期せぬ愉しい出会いが生まれる空間となっている。

誰のせいにもしない 自身が納得できる人生を

人の想いを大きなバスごと一緒に紡ぐ。
捨てられるものを大切に活用し、再び命を吹きこむ。
誰のせいにもしない、自身が納得できる人生をまっすぐに生きている舛本ご夫婦。
The Old Busに訪れると、そんな自然体の舛本ご夫婦と出会えることも旅の魅力の一つ。

今後、四季折々の自然に即した暮らしワークショップを計画していく予定です。
準備が整い次第お届けさせていただきます。

6月 ドクダミと遊ぼうの会
9月 葛の花の会
通年 コーヒー焙煎体験

アクセス

現在予約制での営業となっております。
ご予約確定の上お越しください。
https://theoldbus.net/theoldbus/

伊豆半島の付け根に位置する沼津市西浦の、駿河湾越しに富士山を望む場所にあります。


[お車でお越しの場合]
番地がありませんので、Google Mapをご覧いただくか沼津市西浦久料の「若松海水浴場」バス停を目指してお越し下さい。伊豆中央道「長岡IC」から約20分。駐車場は敷地内に6台(予約制)です。


[公共交通機関でお越しの場合]
沼津駅南口より東海バス「江梨」行きに乗り約1時間「若松海水浴場」で下車してバス停目の前です。バスは本数が少ないためご注意ください。

この記事を書いた人


藤井 さやか
Fujii Sayaka

小中高と沼津で育つ。富士山、駿河湾、沼津市街が見渡せる香貫山からの景色が大好き。人と人を繋げ、人と時を紡ぐ「@ひととき百貨店」店長。
ひとりだとできないことを、力を合わせてワクワク形にすることが好き。
自分が暮らす街をとことん楽しみ尽くします。

ichigo-chan

いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。いちごが大好きです。